さらばバルセロナ | koroのいきあたりばっ旅:アメリカ大陸横断編

さらばバルセロナ

10月31日(日)-バルセロナ、マドリッド


朝起きると、夜遊び族も戻ってきてくかくか寝ていて、部屋中に酒の匂いがした。僕はしばらく天井をにらんでいたが、起き上がった。下のベッドの男は一足先に起きているようだった。


手早く荷物をまとめ、やや時間があったが駅でゆっくりしていればいいや、と思ってチェックアウトしようとしてフロントへ行くと、下のベッドで寝ていた男が腕時計を指差しながらフロントのおじさんと何事か話している。スペイン語だったのでよくわからず、フロントの愛想のよくないおじさんにキーを返し、何気なく時計を眺めるとまだ7時だった。あれ、おかしいな、7時半に起きたはずだったのに、この時計狂っているのかと思ったら、下のベッドの男が英語で「夏時間が終わったから1時間マイナスなんだよ、俺も今気づいてさ」と言った。


最初、その説明は僕の頭の中で全く意味をなさなかった。こいつは何を言っているのだろうと思ったが、だんだん飲み込めてきた。サマータイムが終わることをすっかり忘れていた。ということは僕は7時半に起きたつもりだったのだけれど、実際は6時半に起きたことになる。めんどくさいシステムだな。しかし早いのならまだ許せる。これがもし進んでいたらと思うとぞっとした。


何もやることがないのでフロントのベンチに座ってそこにおいてあった衛星版の朝日新聞を読んだ。なんだかずいぶん久しぶりに日本の新聞を読んだ気がした。新潟の地震のニュースばかりだった。それほど亡くなった人はそれほど多くないようだったが、怖いなぁと思った。


読んでいると、他の泊り客も次々にフロントに出てきて時計を見上げ、「時間間違っているよ」とフロントの人に言うのだが、そこで一時間マイナスだよと言われるとみんな驚いたり「しまった」という顔をしている。そういうのを見ていて面白い。


1人の女の子がやってきてやはりフロントで気づき、「何てことなの」という顔で苦笑しながら僕のほうにやってきて「Did you know the time has changed?」ときれいなBritish Englishのアクセントで言った。いや、フロントで気づいたんだよ、と僕は笑いながら言った。それから少し雑談をした。


彼女は思ったとおりイギリス人で、おそらくインド系の顔をしていた。ロンドンで働いているのだという。彼女は「時間があるし、近くのカフェにコーヒー飲みに行くけど行かない?」と言うので、朝食代わりに僕も行くことにして巨大なバックパックを抱えて外に出た。


朝のバルセロナは夜の喧騒が嘘のように静かだった。すぐ近くのカフェに入って、またカフェ・コン・ラチェを飲む。


飲みながらまたしばらく話をする。「イギリスには行ったことある?」とその人がきいた。「ロンドンだけなら」と僕が言うと、「私の家はコーンウォールっていう、ロンドンから離れた田舎のほうにあるの。いいところだから一度行ってみるといいわ」とイギリス人は言った。


やがて僕の電車の時間が近づいてきたので僕たちは外に出た。勘定は彼女が払ってくれた。「私もいつか日本に行きたいわね、時間ができたら」とその人は言って、僕らは別れた。



バルセロナ・サンツ駅からマドリッドまでの電車の道のりは面白かった。しばらく地中海岸を走り、きれいな海を眺め、それから内陸に入って、台地だが意外に変化に富んだ道を行く。


車内のテレビで-スペインの長距離電車にはたいていテレビがついている-映画をやっていた。「Holes」だったので驚いた。僕はその本を少し前に読んだことがあったからだ。スペイン語だったのでよくわからなかったけれど、まずまずの映画だった。


マドリッド・アトーチャ駅に着いたのが午後の2時過ぎで、ホテルにチェックインする。安いけれどバスもシャワーもちゃんとついている部屋を、最後くらいいいかと思って取ったのだ。


そこからてくてく歩いてプラド美術館にまた行く。小雨がぱらつく中を並んで、今回はうまく入れた。瀬名秀明の「Brain Valley」に出てきた「キリストの変容」(ラファエロ作)があったので思わず見入る。小説の中ではラファエロがなぜこのような画を描いたのかは謎だということになっていたが、確かに不思議な絵である。スペイン語の解説は読んでもよくわからなかった。


美術館を出てから少しそこらへんを歩き、適当な食堂に入ってカラマリを食べて(俺カラマリけっこう好きだし)、部屋に戻ってすぐに寝てしまった。明日は早いのだ。